農林水産分野の主な成果

ウニの陸上養殖をDX化

写真:ウニに餌をあげている様子

一関高専が持つ「閉鎖循環式陸上養殖」の技術をベースに、他高専の技術を合わせることで、ウニの陸上養殖のDX化を目指しました。閉鎖循環式陸上養殖は、オゾンによる水の浄化技術(特許申請中)をもとに運用されており、陸上で養殖することで、災害や温暖化、赤潮などの環境変化の影響を受けないのがメリットです。
その閉鎖循環式陸上養殖を利用したウニの陸上養殖をレベルアップするため、水質の簡易分析装置やそれと連動した水質分析アプリ(一関高専)、餌の残量やウニの活性状況によって餌の供給量を最適化するAIカメラ・給餌機(鳥羽商船高専)、ウニの活性に関与する水温を管理するシステム(一関高専)、ウニの身入りを赤外線で割らずに確認できる透視技術(阿南高専)を開発しました。この技術を応用することで、ウニに限らず、陸上養殖にかかる人手やコストを削減できることが期待できます。

図:ウニの陸上養殖

ウニの陸上養殖を中心とした循環システムづくり

写真:研究中の様子①

ウニの陸上養殖を実施する1つの要因として、「藻場の磯焼け対策」があります。磯焼けとは「海藻が著しく衰退・消失している状態」を指し、ウニが海藻を食べることもひとつの原因と言われています。しかし、ウニは高級食材のため、駆除するのではなく、陸上養殖として畜養することで身入りをよくして販売することができます。これにより、藻場の再生・ブルーカーボンの貯留を促進(鳥羽商船高専、和歌山高専)することにもつながっています。
その他にも、流通できない端材ワカメや昆布をウニの餌として提供しつつ、ウニの糞を肥料とした農業等への活用(阿南高専、函館高専、一関高専)、ウニ殻を活用した機能性素材(重・貴金属の回収)の開発や健康食品(カルシウム・降圧剤)への応用(函館高専、阿南高専、和歌山高専)、地元食材を餌にすることによってウニの味を加工するブランド化(一関高専、鳥羽商船高専)を実施しています。ウニの陸上養殖だけでなく、その前後のプロセスを含めた効率的な資源利用で、流通の循環をつくりました。

ご当地の発酵飲料・食品で全国展開を

写真:研究中の様子②

本分野では、日本酒やビール、パンといった発酵飲料・食品の開発や流通、販売も実施してきました。各地の特色ある酵母を単離し、試験醸造免許の取得校である和歌山高専や函館高専で醸造・活用することで、ご当地の発酵飲料・食品を開発できます。酵母試験や製造支援、市場調査、流通、販売、廃棄物活用などのサイクルを規格化し、全国展開することを目指しました。
函館高専では、同高専が菜の花から分離・培養した酵母を用いて函館五稜乃蔵が醸造した地酒の第一弾「特別純米 菜の花酵母」が完成し、同酒蔵併設のショップなどで発売されました。蔵、米、酵母、デザインとも「オール函館産」の地酒として注目されています。
また、ビールを例に挙げると、ヴァイツェン(小麦麦芽を50%以上使用したビール)を応用したパールエール(鳥羽商船高専)、香りをブレンドしたラベンダーエール(函館高専)などを、和歌山高専を拠点に開発。和歌山高専は地元のブルワリー(和歌山麦酒醸造所三代目)と協定を結んでおり、那智勝浦町のクマノザクラの酵母を使ったクラフトビールを開発・販売した実績があります。和歌山高専と他高専とが連携して開発を行っており、パールエールやラベンダーエールは商標登録の段階まで来ています。

学生コメント

物質環境工学科 5年生

私はGEAR5.0の活動において、鳥羽商船高専でのビジネスプラン立案プロジェクトに参加し、意見交換することの大切さを学びました。同じ「ウニ」についてであっても高専ごとに研究内容が異なるため、学生同士の話し合いで情報やイメージを共有し合ってビジネスプランの骨組みを作り上げていきました。さらに、他高専の先生方やビジネスアドバイザーの先生とも意見交換をし、アドバイスをいただいたことで実現性がグッと高まったことを実感しました。この経験を生かし、今後も様々な活動に参加していきたいと思います。

専攻科 生産システム工学専攻 1年生

GEAR5.0での他校の学生との交流は、私にとって非常に有益な経験となりました。最初は異なる考え方や知識を持つ学生との交流に対して不安を感じていましたが、お互いが持つ強みや得意分野を活かし、共通の目標に対する解決策をより良いものに昇華させていく中で、その不安は自然に解消されていきました。
この経験から、協力と共感の力がどれほど重要であるかを深く理解することができました。他者と協力する中で培ったコミュニケーションスキルや柔軟性は、将来のキャリアにおいても非常に役立つものだと感じています。

ユニットリーダー インタビュー 江崎 修央 鳥羽商船高専 情報機械システム工学科 教授

日本における農林水産分野の課題は何でしょうか。

地域の漁業ですと少子高齢化の影響で人手が不足しており、経営規模の小さい生産者・経営体では特に深刻な問題です。農林水産省のデータでも、漁業就業者数は年々右肩下がりの状態になっています。

また、ここ最近の物価高騰も課題です。特に餌代は非常に高騰しています。真鯛の養殖ですと、餌代は全体の6~8割と高い割合だったのですが、最近は10割を超えたのではないかと言われるほどです。そんな中、数%でも餌を削減できれば、生産者にとっては大きなメリットになります。

私自身、もともと5年前から真鯛の養殖における「遠隔での給餌システム」に携わってきました。AIによって鯛の活性具合を判定し、餌を食べなくなったら給餌を止めるシステムです。それ以降、一関高専の閉鎖循環式陸上養殖の研究開発と共同で進めることになり、給餌の自動化や監視システムを導入して、今に至ります。

このように、経営体規模の小さい地域の水産業をDX化し、人手不足や原価高騰といった課題を解決していくことが必要だと考えて動いてきました。

写真:水槽の魚を調査している様子

そのような理由から、本分野のテーマは「農林水産業のDX推進プロジェクト」です。

「DX」の意味を「IT化すること」だと考えている方もいらっしゃいますが、実際は「IT化によって、産業構造が大きく変わること」です。

本分野の成果の1つに「漁獲予測システム」があります。これは阿南高専、和歌山高専、鳥羽商船高専で連携した取組で、水温データから大阪湾のイカが産卵のために生息している場所を予測し、漁獲量を推定するシステムです。漁獲データや海峡データを機械学習させたうえで開発しました。

これでなぜ産業構造が変わるのか。そもそも、農業でも水産業でも問題になっているのが「生産者がプライシング(価格設定)出来ない仕組みになっていること」です。値段が決まるのは市場ですので、いくらになるか分からないモノを生産するのは、生産者にとって大きな負担になります。

そこで、漁獲予測で漁獲量を推定し、「これくらい獲れるから、ここの市場に持っていこう」と、事前に流通経路を決めることができれば、今よりも高い値段で取引できます。例えば、近年の函館では夏にブリが取れるのですが、函館にはブリを食べる習慣がそこまでないので、高値で取引されません。しかし、漁獲量をあらかじめ見積もっておくことで、他地域の高く買い取ってくれる市場に流通させることができます。つまり、漁獲予測によって、持っていく市場が変わるのです。

また、漁獲予測ではないですが、小型の定置網に観測機を入れて、網の中にいる魚の写真を生産者さんのLINEに配信できる仕組みを学生と開発したことがあります。これで、いつ水揚げすればよいか事前に分かるので、連携先の事業者さんは市場を介さず、自分たちで天然由来のドッグフードをつくって販売するなど、新たな販路を開拓しています。

気候変動によって地域でとれる水産物は変わってきていますので、それに対応した流通と、それに見合ったプライシングが可能になるのは生産者にとって嬉しいはずです。しかし、漁獲予測システムは漁獲データがまだ少ない状態ですので、さらに集めて性能を良くする必要があります。ChatGPTに代表される生成系AI技術なども最近生まれていますから、今後すぐに大きく前進させることができるかもしれません。

写真:ウニを手に持っている様子

農林水産分野の取組を通して、学生はどのような能力が伸びたと思いますか。

「研究開発」「社会実装」ももちろんですが、「循環について学ぶこと」も挙げられます。

ウニの陸上養殖は、その最も大きな成功例だと思います。磯焼けの原因となるウニや端材ワカメ・昆布を陸上養殖に活用し、畜養されたウニのほかにもウニ殻やウニの糞を農業などで再利用する——このように、ウニの陸上養殖だけではなく、その前後の展開を想定した循環づくりがポイントでした。

陸上養殖によるウニは一関高専が埼玉県の企業と連携して、2024年3月ごろから同連携企業が経営する温泉施設のお食事処をメインに出荷を予定しています。また、鳥羽の方でもすでに民宿や旅館からご興味をいただいているところです。

さらに、「アントレプレナーシップ」も重視しました。発酵食品や農業、漁業など幅広いテーマでアイデアソンを実施し、まず「売る」「流通させる」ことを想定してから研究開発をスタートしています。

写真:アイデアソンの様子

また、流通させるには特色があった方が良いので、地域のストーリー性を加味したブランディングを心がけました。ウニの場合ですと、餌によって風味が変わるので、三重県の場合だと青のりなど、餌に地域性を持たせることでストーリー性が生まれるんです。発酵食品も、地元の特産などから酵母を生み出し、それを醸造・活用することで、ブランディングできますね。

このように地域のストーリー性を持たせることや、流通まで考えること——これらもまた循環と言えるのではないでしょうか。

ただ、「売る」「流通させる」ことをまず想定すると言っても、学生が最も刺激を受けるのは、外に飛び出し、解決を求めている方の存在を知ったときだと思います。実際に現場で触れることで、やる気に満ち溢れるんです。地場産業を生かして、これからも農林水産DXに取り組んでいこうと思います。