卒業生インタビュー

羽根のない風力発電機を発明新たなエネルギー革命に挑む

株式会社チャレナジー 代表取締役 CEO

清水 敦史

津山工業高等専門学校 電子制御工学科 1999 年度卒

独自の風力発電機による事業の概況を教えて下さい。
ベンチャー企業として 2014 年に設立し約 8 年が経過しています。2011 年 3 月の東日本大震災における東京電力福島第一原子力発電所の事故を見て、次の世代には原発に頼らないエネルギー供給の道を残すべきと思いました。大手企業でエンジニアをしていた私は再生可能エネルギーで自分に何ができるかを考える中で、日本の環境に適した風力発電機を開発することにより再生エネルギー普及への道筋が示せると思いました。その頃、ダイソンの羽根のない扇風機が話題になっていたこともあり、休日返上で羽根のない風力発電機の開発に乗り出しました。特許を取得した 2013 年に会社を辞め、その翌年に現在の会社を創業しました。その後、試行錯誤を繰り返し現在の「垂直軸型マグナス風力発電機」を開発しました。“ 台風銀座 ” ともいわれる沖縄県の石垣島に出力10kW 級の風力発電機、また 2021年からは、フィリピン北部のバタネス州の島でも 10kW 級の風力発電機で実証を開始しました。
従来のイメージを覆す垂直軸型マグナス式の風力発電機とは。
回転する円柱または球が、風の流れに置かれたときに、その流れの方向に対して垂直の力(揚力)が働くことを「マグナス効果」といい、野球のカーブも同じ原理で曲がります。マグナス風車は、通常の翼の代わりに回転円柱を設置し、それを回転(自転)させて発生するマグナス揚力により風車全体を回転(公転)させて発電するものですが、私たちの風車は、2 つの回転円柱を垂直に立て、それぞれの円柱に整流板を付けることで、効率よい公転を可能とした独自の構造が大きな特徴です。
この垂直型マグナス風力発電機のメリットはどんな点ですか。
安定した風が吹き、伝統的に風車を利用してきた欧米では、プロペラ型の風車が盛んに用いられていますが、日本は安定した風が吹く建設に適した場所が少ないこと、台風によるトラブルが多発することなどから、プロペラ型の普及は遅れています。また、プロペラ型はメリットだけでなく、騒音、野鳥の衝突事故、寒冷地ではプロペラに付着した氷雪が飛散するといった問題があります。我々の垂直軸型マグナス風力発電機は発電効率ではまだ課題は残りますが、台風下でも稼働し、騒音も少なく、野鳥にも優しく、寒冷地でも安全です。世界 20 カ国以上で特許を取得済みです。
今後の計画や夢を教えて下さい。
離島をターゲット市場として普及を目指します。離島の多くはディーゼル発電で、海路による燃料の供給が必要なため発電コストが高く、災害や悪天候による燃料不足で発電できなくなるリスクもあります。現在、実証試験中のフィリピンのみならず、世界中の島嶼から、たくさんの問い合わせがあります。島の電力を風力発電で賄うのはもちろんですが、将来は余剰電力で海水から製造した水素を島の特産品にしたいです。世界中の島を水素の供給基地にして、エネルギーの宝島にするという新たなエネルギー革命に挑戦して「水素社会の実現」を目指したいと思います。
高専教育への要望はありますか。
技術者養成機関ではなく起業家養成機関として再定義し、起業家教育を推進してはいかがでしょうか。高専生が技術力に加えて、マーケティング力、プレゼン力、知財リテラシーを持てば鬼に金棒です。
最後に高専生へのメッセージを一言お願いします。
高専生はエンジニアとして飛び級しているようなものですから、日本が起業家大国になるための切り札になるはずです。高専生ならではの視点とアイデアを、起業を通じて社会実装することで、よりよい世界をつくりましょう。

清水 敦史

しみず あつし
高専卒業後に東京大学工学部に編入。同大大学院を修了後にキーエンス入社。東日本大震災後に独力で「垂直型マグナス風力発電機」を発明。エネルギー革命に挑戦中。