卒業生インタビュー

若いうちから大志を抱けば自然にとるべき行動が決まる

セルスペクト株式会社 代表取締役兼 CEO

岩渕 拓也

一関工業高等専門学校 化学工学科 1998 年度卒

バイオベンチャー「セルスペクト」の概況を教えて下さい。
当社の大きな柱は医療機器、体外診断薬の開発と製造販売、もう一つは衛生検査事業で、簡単にいうと臨床検査センターを保有し、医療の受託検査サービスを行うというものです。われわれはバイオベンチャーを標榜していますが、「バイオベンチャー」とは①スタートアップであること②開発を行うことで事業を展開していること③ベンチャーキャピタルが投資していることの 3 つを満たす企業をいい、創業 50 年の企業がたとえ薬の開発を行っていても「バイオベンチャー」とは言えません。なお「バイオベンチャー」は、多くの先行投資が必要で、結果が出る確率も非常に低いが当たれば大きいというビジネスモデルです。創立から開発に成功するまでの先行投資期間は通常赤字となり、その期間は一般に「デスバレー(死の谷)」と言われます。この間に資金調達に失敗し退場する企業も多いです。当社は盛岡市で創業し約 8 年が経ちましたが、2021 年 3 月期以降、急速に黒字化へ向かい、22 年 3 月期決算では売上高約 15 億円、純利益約 3 億5000 万円を計上することができました。無事にデスバレーを乗り越え、サバイバルできたと思っています。
デスバレーを乗り越えることができた大きな要因はどこにありますか。
一言で表現すれば展開するマーケットを大きくシフトしたことです。バイオベンチャーのほとんどはプロ向けの医療製品にばかり目を向けますが、弊社は一般消費者向け製品の開発に一気に転換しました。それが大きな要因です。この発想の転換こそが大きなイノベーションなのだと思っています。
消費者市場に舵を切る上でのトリガーとなったものは何ですか。
約100年ぶりに世界に大パニックをもたらした新型コロナウイルスが大きなトリガーとなりました。バイオベンチャーとして新型コロナの治療に参画できないかと考え、20 年に長崎大学と共同で、長崎のクルーズ船内で発生した新型コロナの臨床研究に参加しました。この事業で検査キットの薬事承認に成功し、これを広く国民に普及させるための特例措置に対応したところ、意外にも消費者需要が供給を圧倒的に上まわりました。また、ドラッグストア「薬王堂」と連携し同チェーンの全店舗網を通じて、すぐに地域の皆様に届けられる仕組みを作れたことも奏功しました。このように、検査商品の一般化を成功させたロールモデルが得られたことで、弊社はプロの医療向け製品のみならず、一般消費者向けの製品開発へ本格的に舵を切ることにしました。
今後の事業展開の計画や夢を。
中東の世界的企業グループであるアブドゥル・ラティフ・ジャミール(ALJ)と資本業務提携し、中東地域での検査サービスなどを展開すべく準備を進めています。ALJ は世界 30 カ国以上に販売網を持ち、北アフリカでも強いので、この地域での展開も目指します。このほかインド、ベトナム、インドネシア、ブラジルなどにも進出したいと考えていますし、将来的には株式上場などのイグジットをし、株主の利益に貢献したいと思っています。
そもそも高専に進まれた理由は。
私は典型的な好奇心旺盛な理科少年で、体験入学に行ったところ、すべてが実験・実習のプログラムで「こんな面白い学校なら今すぐに入学したい」と思いました。教員からも「個性的な人生が歩める」といわれたので迷いなく入学しました。
最後に高専生へのメッセージを。
留年してもいいのでキチンと卒業して下さい。それと大志を抱いて欲しいということですね。若いうちから大志を抱けば自然にとるべき行動が決まります。

岩渕 拓也

いわぶち たくや
慶応義塾大学医学部フェロー、大手体外診断薬メーカーを経て 2010 年にメタロジェニクスを創業。その後、14 年に盛岡市にセルスペクトを創業し医工連携を加速。