理事長のご挨拶
世界に飛躍する高専の人財育成
-高専教育制度創設60周年にあたって-
高等専門学校(高専)は、1962年に設置・開校され、今年(2022年)、高専制度創設から60周年を迎えました。
高専は、設立当初は当時の産業界からの要請に基づいて、我が国の産業(工業)の発展を支える中堅技術者を工業技術に関する実務教育によって養成する教育機関として、その役割を果たしました。60年を経た今日では、科学技術の発展と社会のグローバル化の中で産業構造も大きく変化し、また未来を創出する人財(社会の財産としての意味で人財と記します)の育成が求められ、養成するべき能力・技能も大きく変化しています。新しい時代の担い手としての実践力・現場力と創造性を有した高度な産業人財の育成、特に若者を、時代の先を見据えて産業界のニーズに応え社会とともに成長できる「変化する力」を持った人財として育成することが求められています。
高専は、基本は、中学校卒業後の15歳の若者を5年間の本科で、あるいは、さらに2年間の専攻科を加えて育成する我が国独自の教育システムです。現在、国立高専は全国に51校(55キャンパス)、他に、公立高専3校と私立高専が3校、合わせて57の高専があります。近年、公立や私立高専の新設の動きもあります。
高専教育は、本科では5年一貫(商船学科は5年6ヶ月)で、一般科目と専門科目、さらに実験・実習、インターンシップ、卒業研究などをバランスよく配置した教育課程により、一人ひとりの個性を生かした人財育成を基本としています。基礎から応用に至る学術はもとより実践力・現場力育成を重視した「高等」教育として実施することがその特徴となっています。基礎から応用につながり、さらに修得した専門的な知識や技術の社会実装へと進めることを目指した教育です。
今日、社会実装に向けて、地域社会や国際社会の動向やその将来に向けて人々が求めるものを見極めて対応ができるように、体系的な専門知識に加えて未来社会を創り出す豊かな教養を含めたいわゆるSTEAM教育にも配慮しています。今後は、リカレント教育の重要性も増加します。また、高専教育においては、各種のコンテストを通した実践力の向上への取り組みが、期限や経費などの様々な制限の中で物事を考え、さらに、分野横断的にチームワークでコトを進めることができる能力の修得に極めて有効に機能しています。一方、専攻科は、本科卒業後の2年間、社会実装を目指した研究を含めたより高度な技術者教育を行っています。
高専卒業生で大学編入を希望する者も多くいます。その受入れを目的として設置された長岡及び豊橋両技術科学大学はもとより、全ての希望する大学への編入、また専攻科卒業生は大学院に進学しています。現在、高専の学生数は全体で5万人を超え、教職員数は非常勤の職員を入れると約1万人規模になっています。その規模からも、また、その果たす役割においても、我が国の主要な「高等」教育機関となり、5万人を超える国立高専の学生数から言えば、我が国最大規模の国立高等教育機関です。これまでに輩出してきた卒業生は40数万人を超え、これまで我が国の産業・教育研究現場の担い手として、また、起業家(特に、ICT分野)や企業経営者はもとより、芸術家、直木賞作家、芸能人、アスリート、政治家などなど、さまざまな分野や職業において活躍しています。近年、高専の卒業生の専門性と高い実務能力・現場力は、産業界や教育界はもとより、国際社会からも極めて高く評価され、「KOSEN」は今や国際語になっています。
国立高専の各学校は、設立当初の文部省(現 文部科学省)直轄の組織から、2004年に現在の独立行政法人国立高等専門学校機構(高専機構)が設置者となる組織に変更されています。2024年度からは第5期の中期目標・中期計画期間の5カ年が始まります。
本年の高専制度創設60周年にあたって、我が国が創り出したユニークな人財育成機関としての高専は、世界のKOSENとして世界に飛躍するべく、また時代の要請にスピード感を持って対応するために、これからも高専の高度化、教育の質保証、国際化、DX化、多様化,学生支援の充実などを基本として、実践力・現場力を持った高度な技術者の育成に邁進します。そのための施設・設備を含めたキャンパス環境整備や適正なガバナンス改革も進めます。人を幸せにし、社会の発展を目指して新しい価値を創造し未来社会を担うことのできる、いわば社会のお医者さん(Social Doctor: Doctor for the Society)であり、Innovator, Creatorである人財の育成に向けて、「成功は失敗の元」と心得て、これまでの成功に慢心することなく、チャレンジ精神(高専スピリッツ)を大事にしながら新たな飛躍に向けた取り組みを果敢に進めてまいります。
結びに、皆様方のこれまでのご支援・ご厚情に感謝申し上げますと共に、これからもより一層のご協力とご支援をいただきますよう重ねてお願い申し上げる次第です。
2022年4月
独立行政法人国立高等専門学校機構
理事長 谷口 功